透析患者さんの糖尿病治療

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透析患者さんの糖尿病治療

わが国における透析患者数は年々増加しており、2011年度末には30万人を超しました。また、糖尿病が原因で透析が必要になる患者さんも増加の一途をたどり、1998年度以降ずっと第一位を維持しています。いまや、透析を受けている患者さんのうち3人に1人が糖尿病性腎症という時代なのです。

先日、日本透析医学会から「透析患者の糖尿病治療ガイドライン2012」が示されました。その中で、糖尿病のコントロールの指標としてグリコアルブミンが挙げられました。皆さんも今まではHbA1Cを糖尿病の指標として一喜一憂してきたと思います。このガイドラインでは、HbA1Cは参考程度の位置づけになりました。これは、HbA1Cが貧血や貧血治療のために用いられるエリスロポエチン製剤などの影響を受け易く、糖尿病の病勢を過大評価していたからです。以前からこのような指摘はあったのですが、これまでグリコアルブミンの具体的な目標値などは示されておらず、引き続きHbA1Cを指標としてきた施設も多かったのではと思います。今回のガイドラインの制定により、透析前血糖値180mg/dl未満、グリコアルブミン24%未満が目標値として掲げられました。更に、インスリン治療を受けている患者さんは透析前後の血糖測定を、内服治療を受けている患者さんは週1回の血糖測定をするように推奨されました。低血糖に注意しながら、当院でもこの指針に従って治療を行っていきます。今後、グリコアルブミンによる臨床報告などが発表されると思います。今後もいち早く皆様に還元できるよう注意してまいります。

透析患者さんの糖尿病治療目標を3点挙げたいと思います。まずは、「低血糖の予防」です。腎不全のため質の良いおしっこを作れなくなると、体の中に老廃物がたまってしまいます。膵臓から分泌されたインスリンも同様に体外に排泄されず、体の中に残ってしまい、血糖値が低く保たれる傾向にあります。また、血糖を上げる生体反応(糖新生といいます。)は、主に肝臓で行われますが、その一部を腎臓が担っています。腎機能が低下すると、血糖を上げる能力が下がり、低血糖に対する対処ができなくなります。糖分は脳の唯一の栄養素であり、低血糖が続けば脳に障害を生むことになります。次の目標は「適正な血糖コントロール」になります。厳密な血糖コントロールにより眼(網膜)や神経などの細小血管障害が抑えられるといわれています。透析療法をはじめていますので、腎臓合併症はやむを得ないにしろ、網膜症や神経症の併発は是非避けなくてはなりません。ガイドラインで掲げられた、透析前血糖値180mg/dl未満、グリコアルブミン24%未満を達成できるように治療を継続しましょう。最後が「心臓血管合併症の予防」です。糖尿病透析患者さんの死因の第一位が心臓血管障害です。心臓や脳などの比較的大きな血管が標的になるこの病態は動脈硬化が主な原因です。厳密な血糖コントロールに加えて、血圧や脂質管理を行うことにより、心臓血管障害の発症を予防できるとの報告があります。一つひとつの危険因子の芽を摘み取ることにより、大きな合併症を防ぎましょう。

糖尿病薬のほとんどが腎臓で代謝されるため、透析医療が必要になった患者さんの糖尿病治療は、原則としてインスリン注射になります。現在では低血糖予防の観点から、超速効型インスリン(商品名:ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラなど)を1日3回食直前に注射する治療法が推奨されています。また、血糖全体のレベルを下げるために、持効型インスリンを併用することがあります。

糖尿病薬は腎臓での代謝が大部分であるため、内服薬では3種類が「慎重投与」という形で認可されているのみです。(1)α-グルコシダーゼ阻害薬(商品名:グルコバイ、ベイスンなど)は、小腸での糖の吸収を抑えることにより食後の高血糖を阻止します。(2)速効型インスリン分泌促進薬(商品名:グルファスト、シュアポストなど)は、短期間インスリン分泌能を活性化して血糖を下げます。(3)DPP-4阻害薬(商品名:エクア、ネシーナ、トラゼンタなど)は、胃や腸からインスリン分泌させるホルモンを長持ちさせるお薬で、血糖値が高いときにインスリン分泌を促進して血糖を下げます。DPP-4阻害薬は比較的新しい薬剤であり、現在、他剤との併用には制限があります。DPP-4阻害薬の一部(ネシーナ)がα-グルコシダーゼ阻害薬と併用することが認められています。実際には、単剤または(1)(2)(これには合剤が発売されています。)、(1)(3)の組み合わせが可能です。内服薬による低血糖は長引くことがあり、入院治療の適応になります。低血糖には十分に注意する必要があります。

指標は変わりますが、糖尿病治療の本質は今までどおり「低血糖の予防」「適正な血糖コントロール」「心臓合併症の予防」です。ガイドライン制定を受けて、更に毎日の食事に気を配り、治療を頑張っていきましょう。


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